「根拠に基づいた政策形成」には行政データの活用が鍵

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 前回前々回に続き、「根拠に基づいた政策形成(EBPM)」の話。

 より良い政策を行うためには、質の高い政策評価・プログラム評価が欠かせない。これから行おうとしている政策がどんな成果(とひょっとしたら副作用)をもたらすのか、できるだけ詳しく知ることは、質の高い意思決定につながるためだ。

 こうした認識は欧米の政策担当者に共有されており、「根拠に基づいた政策形成」(Evidence-Based Policy Making, 以下ではEBPMと略)の流れは日本でも少しずつ取り入れられてきているようだ。

 日本におけるEBPMの導入にはいくつも課題があり、私も過去にこちらのインタビューで詳しく答えている。

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データ=政策評価ではない

 EBPMを行う上で、データの存在は大前提であるが、データがあるからと言って直ちに質の高い政策評価分析ができるわけではないということを前回のブログポストでは指摘した。

 データの存在だけでなく、ある種の「実験」が必要であるというのがその要点なのだが、この「実験」というのが厄介である。社会実験を行うのは実務上も倫理上も大変な困難を伴うし、自然実験を見つけてくるというのは職人芸に近い。特別な訓練を長年受けた研究者がようやく発見にいたるというもので、専門性のない人では全く歯が立たないだろう。

 「実験」は行うのも見つけるのも困難だとしても、政策評価の質を高めるために有効な取り組みは存在する。

定期的なデータの取得

 ひとつの方法は、普段から定期的にデータを取得しておくというものだ。定期的にデータを取得しておけば、たまたま政策変化が起こるなどして自然実験が見つかれば、政策評価を行うことができる。

 私達の保育所利用と子どもの発達に関する研究は、そうした例の一つである。分析に利用した21世紀出生児縦断調査は、保育政策の評価のために行われた調査ではないが、結果的に政策評価に利用することができた。

行政データの活用が政策評価改善への近道

 もうひとつの、おそらくはより望ましい方法は、業務で利用している行政データを活用するというものだ。行政データならば、新たに調査を行う必要もなく、巨額の費用がかかる心配もない。

 加えて、一般の統計調査と違って回収率はほぼ100%である。高い回収率は、日本全体の平均像を正しく映し出すためには不可欠だ。そして、そこに含まれている情報も精度が高い。年収を聞く調査は多いが、正確に覚えている人がいるはずもなく、ほとんどの人は概数で答えている。しかし、税務データが利用可能であれば、正確な課税収入額がわかる。

 こうした行政データの活用では、北欧諸国が先端を走っている。出生時の体重から、健康診断結果・通院歴、学校での成績、課税収入などすべての情報が紐付けられており、研究者が分析することで、政策形成に役立てている。もちろんプライバシー保護は配慮されており、そのための対策はIT技術の活用により低コストで行うこともできる。

 日本でも、こうした行政データの活用を進めることが、政策評価の質の改善、ひいては質の高い「根拠に基づいた政策形成」への近道だろう。